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ジャンクアートを用いた実践例とその社会的意義

アートにはその作品に込められた制作者が伝えたいメッセージがある。社会に対する批判から個人の苦しみまで、多種多様なメッセージがあるだろう。そして、そのメッセージの表し方は、制作者によって様々だ。

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ジャンクアート制作者

例えば、エル・アナツイは、廃品リサイクルをアートに昇華させ、大量物資消費社会やジェンダー決定論に対するメッセージを表した(稲賀 2018)。ここでは、エル・アナツイの作品のようなジャンクアートを例にとり、それぞれの制作者の意図とその社会的意義について論じたい。

スボート・グプタ制作《Line of Control》

一つ目は、スボート・グプタ制作の《Line of Control》だ。美術手帖編集部(2012)の『現代アーティスト事典 クーンズ、ハースト、村上隆まで──1980年代以降のアート入門』によると、「大量に集積されたステンレス食器は、それを使う人々の存在を想起させ、インドの人口増加と工業化、近代化が生み出す巨大なエネルギーを彷彿させる」と述べられている(p.166)。

つまり、彼もまた、廃品とアートを掛け合わせることで、社会に対する疑問を投げかけているのではないだろうか。

Thomas Dambo制作《The Future Forest》

二つ目は、Thomas Damboという活動家の作品だ。彼は、《The Future Forest》や《Giant plastic flower》など、プラスチックごみを集めてアート作品を作っている。そして、これら作品からは、利用価値を見出す人とそうでない人の存在を気づかされる。

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まとめ

以上、いくつかのジャンクアートを紹介してきた。どれもそこには何かしらの社会的なメッセージがあった。
このような、ジャンクアートに見られる前衛芸術が生まれるきっかけとなった運動と言っても過言ではないのが、ダダ運動だ。マルク・ダシー(2008)の『ダダ:前衛芸術の誕生』では、ダダ運動は、「(社会的権威から)芸術とみなされるもの」に縛られていた芸術家たちを、「自分が考える芸術」に直接関われるよう、芸術の概念を変えたものだと述べられている(p.18)。

型にはまったおかたい芸術から、その型を破らんとする前衛芸術が生まれた。そして、さらに時が進み、現在新たなアートの形が生まれつつあるのではないだろうかと私は考える。その一例がはるきるというアーティストだ。彼は、お菓子の空箱で様々な作品を作り上げる空箱職人である(はるきる 2019)。これまで紹介してきたジャンクアートとはるきるの作品の共通点は、ゴミを再利用した作品を作ることだ。しかし、はるきるの作品に私は社会的な啓発活動を一切感じない。作品から感じるのは「楽しい」「有名になりたい」といった思いだ。高尚な目的はなく、そこにはそれらを超越した、承認欲求の充足という実に俗っぽい、現代社会の様相が見て取れる。

ゴミは確かに「不要なもの」かもしれない。しかし、それを昇華できる人がいて、また昇華されたゴミに魅せられる人が非常に多くいる。それは、Thomas Damboやはるきるの作品とその評価を見ても明らかだ。

何百年、いわゆる現在の人々が抱くアート/芸術に対するイメージとは、高尚でかたく、どこか素人を遠ざける雰囲気があったように思う。しかし、ジャンクアートはそういった遠ざかっていた人々をアートに近づける役割を果たし、アートが持っているメッセージをより多くの人々に伝える役目を果たしているのではないだろうか。そして、私は、それこそがジャンクアートの社会的意義なのではないかと考える。

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